医療現場における3Dプリンティングの応用|義肢から神経細胞の再生まで

3Dプリンタは1980年代に誕生し、2000年代後半にかけて次第に広く実用化されるようになりました。3Dプリンタの基幹技術となる光造形装置は日本で開発されており、3Dプリンタは日本と関係が深いデバイスです。開発された当初は、高価で材料も限られていましたが、次第に低価格化が実現しました。現在ではさまざまな造形方式を用いることが可能であり、医療現場における多様な活用方法が期待されています。

本記事では、医療現場における3Dプリンティングの応用の現状について、具体的な事例を交えながら解説します。

3Dプリンティングの基本概要

3Dプリンティングとは

3Dプリンティングは、デジタル上のデータを基にスライスされた二次元の層を積み重ねていくことで、立体モデルを制作する技術のことを指します。

他の製造技術と比較して、より複雑な形状を作成できるため、製造速度の速さや正確さ、柔軟性の高さが特徴です。現在、市場には、エラーの可能性を最小限に抑え、業界の重要な要件である一貫したパフォーマンスを保証する医療用3Dプリンティングソフトウェアも数多く存在します。

医療で使用される3Dプリンティング技術の種類

3Dプリンティングの造形方式には数種類の方式があり、方式ごとに使える材料やできることが異なります。医療現場で活用されている主な3Dプリンティング技術は次の通りです。

SLS方式(粉末焼結積層造形/選択的レーザー焼結方式)
SLS方式は、高出力レーザーを使用して小さな粉末粒子を融合し、正確で耐久性のある構造を作成します。医療においては、カスタムメイドのインプラントや補綴物の製造などの場面で活用されます。
SLA方式(光造形方式)
SLA方式は、レジンなどの液状の光硬化性樹脂を紫外線レーザーよって一層ずつ硬化させていく方式です。複雑な形状もきれいに造形できるため、手術計画や教育目的で非常に詳細なモデルを作成する際に最適です。
FDM(熱溶解積層方式)
FDM方式は、最もコスト効率の高い3Dプリント技術のひとつです。ABS樹脂やPLA樹脂などの固形樹脂を熱で溶かし、ノズルで一層ずつ重ねていくことで造形します。完成品の強度が高いため、手術道具の作成にも活用されています。
バイオプリンティング
バイオプリンティングは、生きた細胞や栄養素などの有機および生物学的材料をバイオインクとして使用し、天然の人間の組織を模倣した人工構造を作成する積層造形プロセスです。生命の臓器や組織、構造物を作成できるため、移植や再生医療に大きな可能性を秘めています。

医療用3Dプリンティングに使用される材料

3Dプリンティングにおける材料の選択は、最終製品の品質と安全性に大きな影響を与えます。医療用3Dプリンティングに使用される材料の主なカテゴリは以下の通りです。

ポリマー
ポリマーとは、多数の繰り返し単位からなる高分子化合物のことを指します。PLA(ポリ酢酸)やABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンを組み合わせて作られる熱可塑性樹脂)などのポリマーは、柔軟性と生体適合性があります。そのため、補綴物や解剖学的モデル、患者固有のツールの作成に適しています。
金属
医療用3Dプリンティングに使用される金属の材料は、チタンやステンレス鋼、コバルトクロムなどです。これらの金属は優れた強度と耐久性を備えているため、整形外科用インプラントや歯科用途には不可欠です。
セラミック
セラミックとは、固体材料と呼ばれるものの内、金属材料と有機材料を除く、無機固体材料であるガラスやセメント、ダイヤモンドなどのことを指します。セラミック材料は生体適合性と高温耐性を備えており、歯冠やインプラント、さらには骨移植片にとって理想的な品質です。
バイオマテリアル
バイオマテリアルは、主にヒトに移植することを目的とした材料のことを指します。人工臓器や組織の構築、その他のカスタムされた生体適合性の実現を可能にするため、3Dプリント用の最も先進的かつ複雑な材料です。

医療業界における3Dプリンティングの利点

カスタマイズの自由度

医療分野における3Dプリンティングの最大の利点は、カスタマイズの自由度です。患者はそれぞれ個性があり、医療ニーズには個別のソリューションが求められることが多々あります。3Dプリンティングは、カスタムの義肢や歯科インプラント、個人の遺伝子構造に合わせた医薬品を製造する場合でも、高度な適合性を保証します。

迅速な製品開発

3Dプリンティングは、製品の短期間での作成と改良を実現します。従来の製造方法と比べて、設計から試作品までの時間が大幅に短縮されるため、医療機器やインプラントなどの開発が迅速に行えます。これにより、製品の市場投入までの時間が短くなり、新しい治療法や技術が早期に患者に提供することが可能です。また、迅速なフィードバックと改良が可能で、より高品質な医療製品の提供が実現します。

複雑な形状の造形

3Dプリンタは完成品のデータと材料があれば、さまざまな造形を柔軟に作り出すことが可能です。従来の製造方法である切削や研削といった機械加工では、複雑な形状や内部構造を持つ医療機器やインプラントの製作が難しく、コストや技術的な制約がありました。3Dプリンティングは、デジタルデータに基づいて層ごとに材料を積み重ねるため、非常に複雑で微細な形状の造形も再現できます。

低い導入難易度

医療業界における3Dプリンティングの利点のひとつとして挙げられるのが、低い導入難易度です。

これまで医療で使用するパーツやモデルを作成するには専用の機器が必要であり、そうした機器を導入するには特殊な設備や専用のスペースが不可欠でした。3Dプリンティング技術は、専門的な製造施設や高度な技術者がなくても導入可能で、比較的少ないコストで医療機関に導入できます。近年の3Dプリンタは、直感的な操作が可能なものが多く、医療従事者が少ないトレーニングで使用を開始できます。

医療現場における3Dプリンティングの応用事例

バイオ3Dプリンタを活用した神経再生技術|京都大学医学部附属病院

画像引用元:京都大学 公式サイト

参考:京都大学 公式サイト

京都大学医学部附属病院は、2020年度において株式会社サイフューズとともに、末梢神経損傷に対する新しい治療法として、バイオ3Dプリンタを活用した神経再生技術の開発に世界で初めて成功しました。

人工神経治療の課題は、細胞成分が乏しい点です。細胞成分が少ない人工神経では、サイトカインなどの再生軸索誘導に必要な環境因子が不足しており、神経を損傷した患者の症状を回復させるのが困難でした。この課題を解決するために、バイオ3Dプリンタによる神経培養と移植の取り組みが進められました。

個別化医薬品の作成|MB Therapeutics社

参考:MB Therapeutics社 公式サイト

フランスのモンペリエに拠点を置くMBTherapeutics社は、医薬品基準に準拠した工業用3Dプリンタを保有する世界で唯一の企業です。同社が開発した医薬品3Dプリンタ「MB-Therapeutics」は、単一の錠剤内に複数の有効成分を組み合わせて、個別に適応した用量と形状で医薬品を設計することができます。

幼い子どもにとって、カプセルや錠剤型の医薬品は窒息の危険があり、液体タイプの薬は使用できない場合や、正確な分量での投与が難しいという課題があります。「Med-U Modular」で作製した薬剤は微量の水で分散できるため、子どもでも飲みやすく、かつ正確な量の薬剤を投与することが可能です。また、薬剤師は、手動調合の柔軟性を維持しながら、工業生産品質でプロセスを自動化できるというメリットもあります。

生体血管に近い血管模型の作製|北海道大学病院

画像引用元:北海道大学「3D プリンターで生体血管に近い血管模型の作製に成功

参考:北海道大学「3D プリンターで生体血管に近い血管模型の作製に成功

北海道大学病院は、光硬化性樹脂を用いて生体血管に近い血管模型を3Dプリンタで作製することに成功しました。この血管模型では、樹脂で造形した後にシリコンコーティングを施すことで、実際の血管と同様の滑り具合を実現しています。生体血管に近い血管模型を3Dプリンタで直接作製できることから、医学的手技のシミュレーションや非侵襲的技術の伝承などに貢献することが期待されています。

歯科用の金属3Dプリンタの開発|Eplus3D社

画像引用元:Eplus3D社 公式サイト

参考:Eplus3D社 公式サイト

ドイツに本社を置く金属3DプリンターメーカーのEplus3D社は、歯科業界における歯科用金属3Dプリンター「EP-M150」を販売しています。

日本における入れ歯や歯の被せ物、詰め物、矯正装置などの歯科用器具の製造は、依然として歯科技工士が手作業で作成していることが多いです。多くの工程があるためエラーが発生しやすく、さらには「時間と手間がかかる」「コストが高くなる」という課題があります。

EP-M150は、最適化されたチャンバー構造や優れたシール特性、独自のスキャニングパス技術により、低コストで高品質な歯科製品の迅速な製造を可能としています。

最先端のバイオニックハンドの開発|PSYONIC社

画像引用元:PSYONIC社 公式サイト

参考:PSYONIC社 公式サイト

PSYONIC社は、3Dプリントや射出成形、シリコン成形、CNCマシンなどさまざまな加工方法を駆使して、これまでにない義肢装具「Ability Hand」を開発しました。金型やさまざまな部品製作に3Dプリンターを活用し、可能な限り高解像度でプリントすることで、品質と低価格、製作期間の短縮を実現しています。

3Dプリントを活用における解決すべき課題点

3Dプリンタは医療現場にさまざまな恩恵をもたらしている一方で、解決すべき課題点も存在します。

規制上のハードル

医療3Dプリンティング業界における最も大きな課題のひとつは、法規制への準拠です。医療機器は生命維持に直接関係するため、実際の現場で使用するためには、関連団体による審査が必要となります。そのため、医療機関は、新しい医療機器や材料の承認プロセスを順守し、規制当局と連携して適切な認証を取得することが重要です。

品質管理

3Dプリントされた医療機器の一貫した品質と精度を確保することは、継続的な課題です。品質管理対策は、特に精度が重要なデバイスやインプラントでの印刷エラーを排除するために不可欠です。厳格な品質管理基準を設けることで、3Dプリンティングによる高品質な医療サービスを提供できます。

コストへの影響

3Dプリンティングはカスタマイズされたソリューションを提供し、患者の治療成績を向上させますが、必ずしも費用対効果が高いとは限りません。このテクノロジーは、特に研究開発段階では高価になる可能性があります。3Dプリンタを開発するメリットとそれに伴うコストのバランスを取ることは、医療提供者や医療機関が直面する課題です。

医療機関がかんたんに導入できる医療DX|予約システムRESERVA

画像引用元:RESERVA.md公式サイト

医療機関がかんたんに導入できる医療DXとして、おすすめなのが予約システムの導入です。予約システムの機能は、来院や面会の予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらにスタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、来院者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。

現在多数の予約システムがありますが、医療機関が効率的にDXを促進するためには、実際に導入事例もあるRESERVAをおすすめします。RESERVAは、28万社が導入、700以上の医療機関も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる病院、クリニックにもおすすめです。

まとめ

本記事では、医療現場における3Dプリンティングの応用の現状について、具体的な事例を交えながら解説しました。3Dプリンタは医療の可能性を拡大し、多くの人々の生活に寄与することが期待されています。

RESERVA.mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。

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