AI問診は、医師などの職員の業務負担を軽減するのみならず、質の高い医療を提供するうえで非常に重要な役割を果たします。特に、専門的な病気に特化した医師が不足していたり、職員が手薄であったりする病院やクリニックでは、患者が適切な医療を受けるうえで、あらゆる病気を高精度かつ迅速に診断できるAI問診が必要不可欠です。近年は、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せており、なかでもAI問診は病院やクリニックの職員と患者の双方に大きなメリットをもたらすことから、注目が集まっています。
本記事では、まずAI問診の基本的な定義とその意義を解説し、実際に直面する課題や懸念点について触れます。さらに、AI問診がどのように医療機関に役立っているのか、具体的な事例を交えて紹介します。
AI問診とは

AI問診とは
AI問診とは、診察の前に紙を用いて患者情報を収集する一般的な問診に対し、AIが自動で生成した質問に患者が回答し、WEB上で結果を回答するシステムのことを指します。AIは、患者の性別や年齢、症状に応じて最適な質問を生成し、機械学習を用いて診断するため、非常に精度が高いです。これによって、医師は隠れた病気を見落としにくくなるほか、専門外の病気の疑いが見られた場合でも、専門機関に迅速に治療をつなげることができます。ほかにも、AI問診によって対面での診察の前に患者情報を収集できるため、診察時間を短縮することが可能です。さらに、AI問診の結果は病院に送信されるため、職員は患者情報や症状を電子カルテに入力する手間がなくなり、業務負担が軽減されます。
WEB問診との違い
AI問診は、患者ごとに質問が変化するのに対し、WEB問診はすべての患者に同じ質問を設定します。患者の性別、年齢、薬の服用状況によって質問がカスタマイズされるAI問診は、より精度の高い診断をする点では有用です。しかし、患者の質問に対する回答によっては、問診が5分程度と長くなる場合があります。これにより患者の負担が増加し、不満が募る可能性があります。一方で、WEB問診は患者層や医師の状況に合わせて、質問の量や内容を自由に設定できます。たとえば、高齢や再来の患者が多いクリニックは、質問内容を短めに設定することで、患者の負担を軽減することができます。
医療現場におけるAI問診の現状
厚生労働省が2017(平成29)年に発表した「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会報告書」では、AIを用いた診断や治療の実用性があることを説き、質の高い医療サービスを提供し続けるために、AIを活用することが重要であると述べています。一方で、厚生労働省が2023(令和5)年に発表した「令和5年1月~3月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」によると、電話や情報通信機器を用いた診療を実施できるとして登録した医療機関数は全体の約16%であり、オンライン診療の普及率は低いことがわかります。この結果から、AI問診の浸透率は非常に低いことが予想されます。
AI問診が直面する課題

患者のプライバシーに対する懸念
IT技術の進展により、医療分野ではセキュリティへの脅威が増大しています。大事な患者情報を管理する医療機関ですが、業務がシステム化されるにつれ、ハッキングやサイバー攻撃の被害にあう可能性は非常に高まっています。AI問診は、診断を下すために患者情報を事細かに収集しますが、セキュリティ対策が十分に行われていないアプリケーションを使用していたり、職員のIT知識が不足していたりすると、患者の個人情報が漏えいする可能性があります。これによって、患者のプライバシーに関わる大きな問題に発展するだけでなく、病院の信頼が損なわれる可能性もあります。したがって、AI問診を導入する際は、万全なセキュリティ対策の計画を立てることが重要です。
運用と操作が困難
AI問診は、タブレット代やライセンス料など、膨大な初期投資が必要であることに加え、機器の維持費などのランニングコストがかかります。ほかにも、システム化にともないセキュリティを強化するためには、新たな設備投資が必要になる場合もあります。さらに、デジタルに関する知識が乏しい職員が多いと、AI問診ツールの適切な操作・管理ができず、病院運営や医療体制に混乱を与えてしまう可能性もあります。このように、AI問診の導入にはコストの高さや運用の難しさという壁があることから、入念な計画を立てたうえでAI問診システムを導入するとともに、職員に対する勉強会や講習会を開くことが求められます。
判定精度の偏り
AI技術が進展してきたとはいえ、エラーや判定精度が低下するリスクを完全に防ぐことはできません。AIは機械学習を用いて問診の内容を最適化していきますが、患者の情報が多岐にわたる場合、AIが混乱してしまい精度に偏りが生じる可能性があります。ほかにも、患者が自身の症状を的確に入力できていない場合、AI問診の結果はあいまいなものになってしまい、実際の診察では全く異なる診断が下されるというケースもあります。つまり、医師はAI問診の結果に完全に頼り切るのではなく、あくまでも診断補助として使用し、患者と対話を重ねて診察を行うことが重要です。
AI問診を導入するメリット

待ち時間削減
患者は自宅でAI問診を受け、事前に結果を病院に送ることで、待ち時間や診察時間が短縮されます。たとえば、のどの痛みの症状がある場合、ウイルス感染や扁桃炎などさまざまな病気の可能性がありますが、AI問診を受けることで、患者と医師の双方が疑いのある病気について診察前に把握することができます。これによって、病院での問診や診察にかかる時間が短縮されるため、患者の満足度向上につながります。さらに、医師は患者から事前に送られてきた結果をもとに診察するほか、医師の専門外の病気である場合はすぐにほかの科に診察を依頼するなど、迅速な医療の提供が可能になります。このように、AIを用いて効率的に問診が行われることで、医師はより多くの患者を診察することができ、待ち時間の削減と回転率の向上が期待できます。
職員の業務効率化
AI問診は、紙を用いて口頭で問診を行う医師や職員の業務を効率化します。紙を使用した問診の場合、患者が問診表を適切に書いていなかったり、高齢の患者の問診で言葉の聞き取りが難しかったりする場合、職員の負担が増加することは避けて通れません。しかし、AI問診を活用することで職員は問診業務にかかる手間が軽減され、患者のケアなど本来の業務に専念できるようになります。さらに、AIは患者に適した質問を効率的に生成するため、不必要な質問をする手間が省け、効率的に問診が行うことが可能になります。これによって、職員は業務負担が軽減されるとともに、患者の利便性向上も期待できます。
24時間365日受診可能
AI問診は、時間や場所を問わずに診断結果を出せるため、仕事や家事で忙しい人にとっても非常に有用なツールです。日中に仕事をしている人にとって、些細な身体の異常である場合は、病院のために休みを取ることはためらわれます。しかし、AI問診は通勤中や就寝前にかんたんに精度の高い問診を受けることができるため、仕事の合間をぬって病院に行く必要がありません。いつでもどこでも問診が受けられることにより、患者はいち早く身体の不安を解消できます。
さらに、AI問診により、診察の質の向上が期待されます。まれに、医師を前にすると症状を的確に伝えられないという患者がいますが、患者は自宅でリラックスしてAI問診を受けられることにより、症状を的確に伝えることが可能になります。これによって、患者は症状や伝えたい内容を伝えそびれることがなくなるとともに、医師はより多くの情報を把握できるため、対面での診察の質が一層向上します。
医療機関におけるAI問診の導入事例
医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院
愛知県にある刈谷豊田総合病院は、働き方改革のプロジェクトの一環として、Ubie(ユビー)株式会社が提供する「ユビーAI問診」を導入しました。当病院は500もの病床がある総合病院であることに加え、患者が適切に問診票を記述してくれなかったり、職員が高齢の患者の問診に手間取ったりするなど、問診業務の負担が大きい状況でした。そこで、AI問診を導入したところ、医師は電子カルテに必要な情報が入った状態で診察が行えるようになったため、今まで問診にかかっていた時間を削減でき、医療の効率化が実現しました。さらに、来院前にAI問診を行えるため、患者の病院滞在時間を短くするほか、患者が病状をしっかりと伝えられる環境を整えることができました。
沖永良部徳洲会病院

鹿児島県の沖永良部島にある沖永良部徳洲会病院は、2023年5月に株式会社プレシジョンのAI問診ツールである「今日の問診票」を導入しました。当病院は約1万1千人の人口を抱える総合病院でありながら、都会と変わらないレベルの医療を提供するために、不断の努力を続けてきました。しかし、問診に関しては看護師が口頭で行っていたため、看護師の負担が大きく、さらに患者の待ち時間も恒常的に発生している状況でした。そこで、AI問診ツールを導入したところ、看護師の業務効率化と待ち時間短縮が実現したとともに、医師は専門外の疾患にも対応できるようになり、医療の質向上が実現しました。
日本海総合病院

山形県酒田市にある日本海総合病院は630もの病床を抱える急性期病院であり、救命救急センターにおいては、医師は専門する診療科以外の患者を診ることがありました。さらに、以前は医師の問診や看護師が電子カルテに問診の内容を入力するなどの業務に時間がかかっており、効率的とはいえない医療体制でした。そこで、Ubie(ユビー)株式会社が提供するユビーAI問診を導入したところ、カルテ記載の時間が12分から8分に短縮され業務効率化が実現するとともに、患者の待ち時間が短縮されて回転率が向上しました。さらに、コロナ禍においては患者が自宅でAI問診を受けられたことで、感染対策にもなりました。
AI問診の展望

IT人材の育成で効果を最大化
現時点で、AI問診の課題点のひとつとして、システムの操作の難しさや、システムのサポートをする人材が不足していることが挙げられます。そこで、今後は病院にIT人材を配置するほか、AI問診のシステム開発・サービス提供会社が連携し、医療機関が適切にAI問診ツールを使用できる環境をともに構築していくことが重要です。ほかにも、医療機関で職員へのシステム講習会や勉強会を開き、誰でもAI問診システムを運用・操作できるようにすることで、AI問診を効果的に利用することができます。医療DXが推進されるなか、これらの取り組みを積極的に行うことで、AI問診の効果の最大化とともに、医療の質向上が期待できます。
患者の受診行動の変化
AI問診が普及することで、患者は自身で健康管理を行うことができるようになり、セルフメディケーションの意識が高まることが期待できます。従来は、些細な症状でも医療機関に行くことが一般的でした。しかし、近年は国民医療費の削減などを目的として、軽度な身体の不調は自身で治すセルフメディケーションが推奨されています。そこで、AI問診が普及すれば、病院に行くことなく身体の不調の原因と対策を知ることができるため、セルフメディケーションをさらに後押しすることが期待できます。セルフメディケーションによって、患者は無駄な医療費を使う必要がなく、国も国民医療費の増加を防ぐことができるため、一石二鳥です。さらに、軽度の症状で医療機関を訪れる人が減るため、病院運営に余裕が生まれ、一刻も早く治療が必要な患者に医療を提供できるようになります。
AI問診とともに活用、予約システムRESERVA

AI問診を活用した医療現場における業務の効率化とともに、誰でも手軽に始められるのが予約システムの導入です。予約システムの機能は予約管理にとどまらず、予約者情報の管理と蓄積、スタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、クリニックや医療機関の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、利用者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
現在は多数の予約システムが存在しますが、効率的な病院運営を実現するためには、実際に導入事例もあるRESERVA mdがおすすめです。RESERVAは、30万社が利用、700以上の医療機関が導入したという実績がある国内トップシェアクラスの予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、助産院・医療機関の業務プロセスがより効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる病院やクリニック、薬局にもおすすめです。
まとめ
今回は、AI問診の基礎から、AI問診が直面する課題、メリットや具体的な事例を紹介しました。AI問診は、従来医師が行ってきた問診をAIが行うという革新的な医療ツールです。AI問診は、機械学習を用いるため、医師の知識外の症状にも対応できることから注目が集まっており、今後さらに普及していくことが予想されます。しかし、AI問診は運用や管理の難しさ、判定精度の偏りなどの課題も存在しています。今後は、医療機関はAI問診をはじめとしたシステムを活用できるスキルを身につけるとともに、システムの開発・提供企業とも連携し、最善の医療体制を築いていくことが求められます。
さらに、AI問診とあわせて予約システムを活用することで、さらなる業務効率化が可能になることも紹介しました。AIを活用して問診の質を向上させることに加え、病院の受付や予約をシステム化することで、より効率的かつ患者の満足度の高い病院運営が可能になります。
RESERVA mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。