医療翻訳は、患者の安全や治療の質を確保するために重要な役割を果たします。特に医学領域では正確で信頼性のある翻訳が求められ、専門知識が不可欠です。また、近年では、AIを活用したAI医療翻訳ツールが普及し、翻訳作業の迅速化や効率化が進んでいます。これらの技術は一般的なテキストの翻訳において有用ですが、医学的な専門用語や文脈に基づく翻訳にも特化したツールが現れています。
本記事では、まず医療翻訳の基本的な概念とその意義を解説し、実際に直面する課題や懸念点について触れます。さらに、現在の技術やツールがどのように医療翻訳に役立っているのか、具体的な事例を交えて紹介します。
医療翻訳の概要
医療翻訳とは
医療翻訳とは、医療に関連するあらゆる情報や資料を他の言語に翻訳する作業を指します。翻訳対象は多岐にわたりますが、代表的なものとしては、診断書、医薬品の添付文書、臨床試験の結果、患者教育用の資料などが含まれます。近年では、AIによる機械翻訳の手法をもとに開発されたツールも出てきています。
AIによる医療翻訳は、誤訳が直接患者の健康に影響を与える可能性があるため、その精度が特に重要です。また、医療分野の高度な専門知識が求められ、翻訳者は医学的なバックグラウンドを持っていることが理想的です。さらに、医療翻訳は言語の壁を越え、異なる文化や医療システムに配慮しながら行うことが求められます。
対象となる分野
医療翻訳はさまざまな分野で活用されます。まず、医療機関では、患者情報、診断書、治療法の説明、手術のリスク説明などが多言語で必要となります。これにより、異なる言語を話す患者にも正確な情報を提供できます。また、製薬業界では、新薬の研究報告書や臨床試験結果、薬の添付文書などが翻訳されます。これらの翻訳は、医薬品が異なる国々で承認されるために必要不可欠です。さらに、患者教育や医療従事者向けの資料の翻訳も行われており、これにより、異文化間での理解を深め、治療法や予防法についての知識を広めることができます。
AIによる医療翻訳は、医療機関と患者、または異なる国の医療機関間でのコミュニケーションを円滑にするために欠かせません。正確な翻訳が行われなければ、誤った診断や治療が行われるリスクが高まるため、翻訳者は常に高い精度を保たなければなりません。
医療翻訳の重要性
患者の安全確保
医療翻訳の精度は患者の安全に関わります。翻訳ミスによるリスクは非常に高く、誤った薬を処方されたり、誤解を招く診断が行われたりする可能性があります。翻訳を誤ることで、診断結果や治療法の説明について患者が誤解し、不適切な治療を受ける可能性があるため、医療翻訳の精度は極めて重要です。
国際的な医療の発展
医療分野では国際的な協力がますます重要になっています。臨床試験、薬の承認プロセス、医療技術の発展など、医療の進展はグローバルな規模で広がっています。また、新薬の研究結果や臨床試験のデータは、国際的に共有され、異なる言語での翻訳が必要です。医療機関や製薬会社は、翻訳の精度を保ちながら、迅速かつ効果的に情報を共有し、グローバルな医療の発展に寄与することが求められています。
医療翻訳における課題と懸念
誤訳や不正確な翻訳のリスク
医療翻訳において最も懸念されるのは誤訳や不正確な翻訳です。誤った翻訳は、患者に誤った診断や治療を行わせる原因となり、生命に危険を及ぼす可能性があります。例えば、薬の成分や使用法を誤って翻訳すると、予期しない副作用や効果が発生することも考えられます。医療翻訳は単なる言語の変換ではなく、医学的背景を理解した上で行う必要があるため、高度な専門知識を有した翻訳者が必要です。
文化的・法的な違い
医療翻訳には、文化的背景や法的な違いへの配慮が欠かせません。各国の医療システムや治療法、薬の使用法は異なるため、翻訳者は単に言葉を訳すだけでなく、その国の文化や医療慣習を理解した翻訳を行う必要があります。例えば、ある国で有効とされる治療法が、別の国では効果がないとされている場合、翻訳時にその違いを正確に伝えることが求められます。さらに、薬剤に関する規制も国によって異なり、薬の使用方法や承認プロセスについても翻訳者が注意深く対応することが重要です。
プライバシーと機密保持
医療翻訳には、患者の個人情報や治療内容に関する機密性が関わります。医療機関で使用される翻訳資料には、患者のプライバシーに関わる情報が含まれていることが多いため、翻訳者はその取り扱いに細心の注意を払う必要があります。データの漏洩や誤用を防ぐため、翻訳者はデータ保護の規則を遵守し、必要に応じて機密保持契約を結ぶことが求められます。これにより、患者情報が適切に管理され、プライバシーが守られることが保証されます。
翻訳業務を効率的に進める医療DXとは
医療DXとは
AI技術の技術を借りながらより効果的かつ効率的に医療翻訳を進めるために役立つのが、医療DXです。医療DXとは、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータを、クラウドなどの最適化された基盤を通して、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図る動きです。これにより、国民自身の予防を促進し、より良質な医療や調剤を受けられるように、社会や生活の形を変えることが期待されています。
医療DXは、サービスの効率化や質の向上により、以下の5点の実現を目指しています。
1.国民の更なる健康増進
2.切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
3.医療機関等の業務効率化
4.システム人材等の有効活用
5.医療情報の二次利用の環境整備
これらの実現に向け、日本では「医療DXの推進に関する工程表」にもとづき、①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化等、③診療報酬改定DXを3本の柱とし、取り組みを進めています。
参考:厚生労働省「医療DXについて」
医療翻訳ツールの事例
T-tact AN-ZIN®(ティータクトアンジン)|株式会社十印
T-tact AN-ZIN®は、高性能で安全なクラウド型自動翻訳システムです。株式会社十印は、国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)と総務省が取り組んでいるプロジェクト「翻訳バンクプロジェクト」によって蓄積されたさまざまな企業からの翻訳データを使用して機械翻訳エンジンの深層学習を行い、非常に流暢で精度の高い訳出を得られるツールを開発しました。
当製品は、高精度のリーガルエンジンを始め、専門分野に特化したエンジンをそろえています。過去に翻訳したデータが多くある場合、翻訳エンジンに自社特有の表現・用語をAI学習させることで、専用の翻訳エンジンを作成できます。業界の専門用語や文章の特徴など、業界ごとに訳し分けることも可能です。
Medi-point-RTI(メディポイントアールティーアイ)|Tauris(タウリス)
Medi-point-RTIは、AIおよび専用辞書による医療従事者に特化した通訳・翻訳サービスです。あらゆる医療現場を想定し、医者と患者の会話をストレスなくスムーズに通訳・翻訳ができます。新たに開発されたAIを用いた高精度な自動翻訳、音声認識、音声合成を採用し、同時通訳に近い形での通訳が可能です。
当製品では通訳精度を上げるため、蓄積した医療データをベースにタウリス独自の辞書を搭載しており、約98%の翻訳精度を実現しています。医療英語の学習や論文の作成など、幅広い用途に活用でき、医療の語学学習をしたくても忙しくて時間がなかった、多くの医療従事者に活用できます。
AIKO SciLingual(アイコサイリンガル)|ASCA Corporation(アスカコーポレーション)
AIKO SciLingualは、医学・医薬に特化したAI翻訳プラットフォームです。AI翻訳だけでなく、編集・共有、翻訳相談、依頼まで、ワンストップで対応できます。精度を高めたい、専門性にこだわりたい、学習させたい、共有したいなど、医療現場のニーズに応え、英語⇔日本語だけでなく、中国語⇔日本語の翻訳の精度も高い点が特徴です。
当製品では医学・医薬に特化したオリジナルの翻訳エンジンを搭載し、さまざまな文書、使用目的などに合わせて使うことができます。医薬文書に適した専門用語・言い回しから、多言語(33言語)のニーズまで広くカバーしている翻訳ツールです。
mediPhone(メディフォン)|メディフォン株式会社
mediPhoneは、外国人患者を受入れる医療機関へのサービス提供を主に行っています。医療機関の外国人患者受入れの現場を熟知したスタッフが多く在籍しているため、単なる言語サポートツールの導入では解決できない体制整備や患者対応に関連する課題も一通り解決することが可能です。
例えば、「患者さんから外国語で電話がかかってきたので通訳者に対応してほしい」「重要な告知の通訳なので専門性の高い通訳者を予約して、事前に使う資料を見て理解しておいてほしい」「認証取得に向けて資料をまとめて翻訳してほしい」等、通訳や翻訳が必要なシーンでも柔軟な対応が可能です。
参考:mediPhone
Voice Biz®(ボイスビズ)|TOPPAN(トッパン)株式会社
VoiceBiz®は、外国人や多言語対応に適した音声翻訳サービスです。「行政・自治体窓口用語」「医療機関における看護師会話用語」「教育機関用語」があらかじめ登録されているため、面談や受付業務のような口語表現が多く見られるシーンでも、自然かつわかりやすい翻訳を提供します。
さらに当製品と連携可能なテレビ電話通訳サービス「VoiceBiz®Dial」と連携させると、「VoiceBiz®」からワンストップで通訳オペレーターにつながり、利用目的に応じて音声翻訳とテレビ電話通訳を選べます。
参考:VoiceBiz®
医療DXを始めるなら予約システムRESERVA
医療現場では、患者とのコミュニケーションのみならず、来院業務やスタッフの配置、備品の補充などのさまざまな面でデジタル技術を活用した医療の最適化が求められます。こうした業務を効率化するために役立つのが、予約システムの導入です。予約システムの機能は、来院や面会の予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらにスタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、来院者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
現在、多くの予約システムがありますが、医療機関が効率的にDXを促進するには、導入実勢が豊富なRESERVAがおすすめです。RESERVAは、30万社以上が導入、700以上の医療機関も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められます。予約サイトは6タイプから選択できるため、さまざまな医療サービスの形に適応します。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる病院、クリニックにもおすすめです。
また、RESERVAは多言語設定機能を搭載しており、予約サイトの「営業時間」「お問い合わせ」などの固定文言や「予約する」などのボタンについて、自動で外国語表示に切り替えられます。日本語がわからない方向けの予約サイトを作成できるため、日本語が話せなくても予約受付が可能になります。
RESERVAは予約を受け付けるだけでなく、多岐にわたって業務の効率化を図ることが可能です。医療機関に最適なRESERVAの詳細は、こちらをご覧ください。
まとめ
今回は、医療翻訳の分野での医療DXについて解説しました。国際的な医療協力が進む中、医療翻訳の需要はますます高まり、効率と精度が高まった翻訳力が求められます。医療翻訳ツールは、技術と専門知識を蓄え、患者の命を守るために重要な役割を果たし続けるでしょう。
RESERVA mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。