デジタルツインは、現実の物体や環境をデジタル空間に正確に再現し、シミュレーションを行う技術です。この技術は建築や製品設計など様々な分野で活用されていますが、医療分野で特に注目されています。医療においてデジタルツインを利用することで、個々の患者の詳細な医療データに基づき、パーソナライズされた治療が可能になります。
医療デジタルツインの導入は、多くのメリットをもたらします。患者の生体情報や医療記録を一元的に分析するため、病気の予防や早期発見が実現します。また、医療施設の運用効率化によりコスト削減が図られ、手術のシミュレーションによって治療の精度が向上します。
しかし、この技術にはいくつかの課題も存在します。主な問題の1つは、患者のプライバシーの保護とデータのセキュリティ強化が従来以上に必要になることです。また、患者がこの技術に対して十分に理解していないままデータを提供していた場合、不正アクセスなどの倫理的な問題が生じることが考えられます。
本記事では、医療デジタルツインのメリットと課題を、具体的な研究所や施設の事例を交えて詳しく解説します。
医療デジタルツイン
デジタルツインとは
デジタルツインとは、現実の物や環境、人々をデジタル上で完全に再現する技術です。具体的には、設備や建物に搭載されたIoTデバイスから収集されるデータをもとに、現実に瓜二つな都市や施設をバーチャル空間上に精密に複製します。このデジタル上のモデルはAIを用いて分析やシミュレーションを行うことができるため、都市計画、建築、製品設計など、さまざまな分野で導入が進んでいます。
医療への応用
デジタルツイン技術は医療分野でも積極的に研究が進められています。この技術を活用することで、患者の心拍数、血圧、体温、CTスキャンの結果といった医療データをバーチャル空間で再現できます。これにより、患者一人ひとりに合わせた最適な治療計画を立てることが可能になります。
さらに、デジタルツイン技術は病院の検査機器から得られる情報だけでなく、患者が使用するスマートウォッチなどのデバイスからのデータも統合します。これにより、医療提供者は患者の健康状態を継続的にモニタリングでき、迅速に対応が必要な場合には速やかに介入可能です。この技術により、医療の情報管理が向上し、従来の方法よりも高品質でハイスピードな医療サービスが実現します。
医療デジタルツインのメリット
病気の予防・早期発見が可能に
医療デジタルツインは、患者の日常から収集される生体データや、過去の医療記録、さらには遺伝子情報までを統合することにより、1人ひとりの患者の健康リスクを精密に分析し、将来発症する可能性のある病気を予測します。これにより、医療提供者は特定の健康リスクに対して予防策を講じることができ、必要に応じて早期治療を行うことが可能です。
例えば、ウェアラブルデバイスから取得される心拍数や睡眠パターンのデータを活用して、患者の心臓病や糖尿病といった生活習慣病のリスクを早期に捉え、彼らに具体的なアドバイスを提供できます。
医療施設の安全性と運営効率が向上
デジタルツインにより、医療機器の運用状況をデータベースで管理し、故障を予防することが可能です。具体的には、医療機器の温度上昇や起動回数、電圧などのデータを分析することで機器の寿命を予測し、計画的なメンテナンスや部品の交換時期を事前に把握できます。
また、デジタルツインは医療施設の人流にも適応可能で、季節や曜日による患者の来院パターンを予測します。これにより、医師や看護師などの人員配置をデータに基づいて最適化し、無駄な労力とコストを削減できます。さらに、急な患者数の増加にも迅速に対応することで医療従事者のオーバーワークを防ぐことも可能です。
手術のシミュレーションが可能
手術のシミュレーションが可能であることも、医療デジタルツインの大きなメリットの1つです。特に高難度の手術では、患者の脳や心臓といった生死に直結する重要な臓器を扱うため、手術前の準備が非常に重要です。デジタルツイン技術を活用することで、これらの臓器をデジタル上で正確に再現し、手術プロセスを仮想空間で詳細にシミュレーションすることが可能になります。
医療デジタルツインの課題
プライバシー・セキュリティ侵害のリスク
デジタルツインにより、医療データがバーチャル上で集積・分析されることで高品質な医療が可能になる一方で、これらのデータに関する倫理的・社会的課題も生じます。例えば、個人の生体データや遺伝子情報などは非常に重要かつ私的なデータであるため、不正アクセスなどによって少しでもデータ漏洩が起こった場合、重大なプライバシー侵害につながります。
さらに、データの保管と処理には高度なセキュリティ対策が必要ですが、すべての医療機関が最新のセキュリティ技術を導入しているわけではないため、セキュリティの不均一性が新たな問題として浮上します。
同意の問題
医療デジタルツインは患者の体をデジタル化し、治療のシミュレーションに使用する技術であるため、患者がデータ利用について明確に理解し、同意していることが鍵となります。もし患者が自分のデジタルツインに関する情報を適切に把握していなかったり、その利用に同意できなかったりする場合、不正な監視やデータ利用につながる恐れがあります。
そのため、患者と医療施設との間には、明確な同意フォームを設ける必要があります。これにより、患者が自分のデータに対してコントロールが可能になり、必要に応じて同意を撤回したり、同意箇所を変更したりすることが容易になります。また、このデータへのアクセスはどのような条件で誰が行えるのか、その基準を社会的に明確に設定することも重要です。
健康と病気の線引きが曖昧に
医療デジタルツインを導入することで、患者の健康状態が高い解像度で分析されるため、これまで健康と考えられていた状態に対しても予防的介入が提案されるケースの増加が考えられます。その場合、健康と病気の境界が曖昧になる問題が生じます。
例えば、デジタルツイン技術によって患者の病気リスクが判明した場合、医者は積極的な医療介入を行います。しかし、その治療は従来ならば「健康」と判断されて行われなかったものであるため、患者と医療提供者の間で治療を進めるかどうかに関して意見が対立するかもしれません。このように、医療デジタルツインは過剰な医療提供へとつながるリスクを含んでいます。
医療施設でのデジタルツイン開発事例
国立がん研究センター
国立がん研究センターは、「医療デジタルツインの発展に資するデジタル医療データバンク構想」を進めています。このプロジェクトでは、診療情報やゲノムデータを含む各種医療情報をデジタル化して蓄積し、そしてこれらのデータを活用したAIによるがん診断や治療、新薬開発のためのプラットフォームを構築することを目指しています。
また、この事業は将来的に全国のがんセンターや行政と密接に連携しながら、全国規模の取り組みに発展させることを目的にしています。
国立循環器器研究センター
国立循環器病研究センターは、心血管疾患の予測と治療のために「バイオデジタルツイン」技術の開発に力を入れています。この技術を利用することで、個々の患者の心臓機能をデジタルモデル化し、実際の治療を行う前にさまざまな治療法を仮想空間で試すことができます。これにより、患者の病態に合わせた最適な治療を選ぶことが可能となり、将来的には自動治療や仮想空間のみでの臨床研究が行えるようになる見込みです。
参考：国立循環器器研究センター「バイオデジタルツイン研究部 」
国立精神・神経医療研究センター
国立精神・神経医療研究センター（NCNP）は、日本電信電話株式会社（NTT）と共同で認知症やうつ病などの精神・神経系疾患の早期発見と予防を目指して、「脳バイオデジタルツイン」の開発に取り組んでいます。この技術は、患者の身体データをデジタル化し、サイバー空間で詳細な生体モデルを作成することを通じて治療を行います。これにより、従来は侵襲性の高い検査が必要だったものが不要になり、患者の負担が大幅に減少します。
さらに、この技術ではAIと機械学習を活用して、蓄積された大量の医療データから病態モデルを生成し、その結果を基に効果的な治療法や予防策を提案することも可能です。
参考：国立精神・神経医療研究センター「NCNPとNTT、「脳バイオデジタルツイン」の実用化に向けたパートナーシップ協定を締結 ～認知症等患者の負担軽減、疾患の早期発見・予防をめざす～」
医療DXにはRESERVA
病院やクリニックのDX化でお困りの方におすすめなのが予約システムの導入です。診療予約や面会、予防接種など、予約管理と患者の管理を一元化します。予約システムの機能は、予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらにスタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、来訪者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
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まとめ
本記事では、医療デジタルツインのメリットや課題、実際に開発に取り組む研究所の事例について詳しく触れてきました。医療DXは、病気の早期発見、医療施設の運営効率化、手術のシミュレーションを可能にします。DXを推進するにあたって課題を抱えている医療機関の関係者は、ぜひ本記事を参考にしてください。
RESERVA.mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。
