デジタルトランスフォーメーション(DX)は、医療分野にも革新をもたらしています。特に人材不足が深刻な医療業界では、AIの導入が人手不足の解消に大きく貢献します。そこで本記事では、医療DXの概念や医療現場における人材不足の現状とその可能性について説明します。また、現在どのようにこれらの技術が活用されているのか、全国の医療機関や企業の事例を紹介します。
医療DXとは
医療DXとは、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータを、クラウドなどの最適化された基盤を通して、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図る動きです。これにより、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることが期待されています。日本は、世界に先駆けて超高齢社会に直面しており、国民の健康寿命を延ばし、持続可能な社会保障の実現を進め、未来を生きる人々が安心して暮らしていける環境づくりが求められています。
厚生労働省では、医療DXとして以下の5つの目標の実現を目指しています。これらは、日本の将来的な医療を切り開く道筋となります。
①国民の更なる健康増進
②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
③医療機関等の業務効率化
④システム人材等の有効活用
⑤医療情報の二次利用の環境整備
参考:厚生労働省「医療DXについて」
医療現場における人材不足の現状とその影響
近年、日本の医療現場では深刻な人材不足が続いています。厚生労働白書の「社会保障を支える人材を取り巻く状況」(2022年)によれば、高齢化社会の進展や医療技術の進化に伴い、医療サービスの需要は増加していますが、それに応じた医療従事者の確保は困難な状況です。この人材不足は、医療の質を維持する上で大きな障害となっており、医療従事者の負担増加や患者ケアの質低下といった深刻な影響をもたらしています。
医療従事者の不足がもたらす課題
医療現場では、少子高齢化により医療や福祉の需要が急増し、供給が追いつかないことで、人手不足が深刻化しています。特に看護職員の就業者数は、人数自体は増加しているものの、業界全体の人材需要に対応できていません。
公益社団法人日本看護協会の「2023年病院看護実態調査」(2024年)によると、新卒看護職員の離職率は10.2%と高い結果でした。また、正規雇用看護職員のうち、傷病による連続休暇を取得した人が増加していることもわかっています。「仕事がきつい」や「賃金が安い」といった理由で離職が続き、結果として、医療事故やミスのリスクが増大しています。
人材不足が患者ケアに与える影響
2009年に発表された厚生労働省「コメディカル不足に関して〜看護師の人数と教育〜」で、病床あたりの看護師数が多ければ多いほど、患者の安全性は高くなることが証明され、人手不足が患者の安全性を脅かしていると指摘されています。そのため人手不足の解消は、医療の質向上に不可欠です。
看護師が複数の患者を同時にケアする必要がある場合、細かい観察や適切な対応が難しくなり、患者の症状の悪化や安全性が脅かされる可能性が高まります。さらに、患者とのコミュニケーション不足が、信頼関係の構築を妨げるため、患者の満足度低下や治療結果にも悪影響を与えることが考えられます。医療の現場で質の高いケアを提供するためには、十分な人材の確保が不可欠です。
人材確保の難しさとその背景
医療機関で看護師の採用が難しい理由は2つあります。
1つ目は、高齢者の増加により医療ニーズが高まっていることです。毎年約6万人が看護師の国家試験に合格するものの、総人口に占める高齢者の割合は年々増え続けており、総務省「統計からみた我が国の高齢者」(2023年)では29.1%に達し、日本の高齢者の割合は世界最高水準です。高齢者の割合は今後さらに増え続けると予想されており、看護師の免許を取得する人が増えていても、人手が足りない状況は続くと考えられるでしょう。
看護師の採用が難しい2つ目の理由は、厳しい職場環境です。看護師が働く現場は、従来から問題が指摘されていました。具体的には、時間外労働が多い、夜勤が多く勤務が不規則、休日出勤、オンコールなど、業務負担が多いことが、離職率が高い原因と考えられます。
また、離職者が多くても、有効求人倍率が高いことから、ほかの職場でも需要があると考えられます。そのうえ、女性の割合が9割以上を占める看護師は、結婚や出産・育児による退職も少なくありません。
医療DXの可能性
医療機関は深刻な人材不足を抱えていることがわかりました。そこで、このような問題を解決するためにさまざまな方法でDX化が進められています。本段落では、これらの医療DXの可能性を考えていきます。
AI診断による迅速かつ精度の高い診断支援
厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」では、医療におけるAIの活用について6つの重点領域が挙げられています。
①ゲノム医療
②画像診断支援
③診断・治療支援
④医薬品開発
⑤介護・認知症
⑥手術支援
そのうち、もっとも活用されているのが、②の画像診断支援の領域です。画像診断におけるAIの支援には、大きく3つの用途があります。
1つ目は、医師が診る前にAIが判別するというものです。医者より先にAIが先に判別することによって、限られた診察時間を有効活用できます。これにより、医師は、より難しい症例に注力することができるため、負担軽減につながります。
2つ目は、医師が診た後にAIが判別するというものです。医師の問診後にAIが確認することで、ダブルチェックの役割を果たせます。ひとりで判断しなければならないことで、判断ミスによる医療過誤が起きてしまいます。また、ひとりの判断では責任が重いうえに、精神的重圧を感じて重大な見逃しにつながる可能性があるため、AIによる判断ミス減少に期待が寄せられています。
3つ目は、医師とAIが同時に患者を診察することです。AIがリアルタイムで医師をサポートすることで、その場で症例などを提案でき、見逃しの軽減につながります。また、AIと共に診察することで、医師の負担が軽減され、重い責任感から解放される効果も期待できます。
翻訳機能を活用した外国人スタッフの採用促進
翻訳機能を使うことで、不足している医療従事者の枠を外国人労働者で補うことができます。現在、日本の医療現場では、少子高齢化に伴う人手不足が深刻化しており、外国人スタッフの雇用が拡大しています。しかし、言語の壁が大きな課題となっており、スムーズなコミュニケーションが求められます。そこで、AIを活用し、リアルタイム翻訳機能を使うことで、言語障害を解消可能です。これにより、外国人スタッフは患者とのコミュニケーションが円滑に行えるだけでなく、業務の効率化も図れます。また、医療機関側も、スタッフの研修や教育に翻訳機能を活用し、多文化共生を推進しています。
予防医学へのAIの活用
近年は、治療ではなく、病気にかかる前の段階で早期に予防し、医療介護費の減少につながる予防医療技術が注目されています。予防医療における3つの課題と、それに対するデジタル技術を用いた解決方法を紹介します。
1つ目の課題である、自身に適した目標や生活・運動の取り組みの設定については、自身の健康データをAIによって解析する技術が活用できます。AIはすでにさまざまな分野で応用されていますが、予防医療においては、運動・食事、身長、体重、血圧、血糖値などの健康データとAIを組み合わせ、予防に必要な情報を入手可能です。これに合わせて自分に適した生活や運動などの目標を立てられます。
2つ目の課題は、健康管理や運動を仲間と一緒に取り組むことが、VR技術の活用で実現できます。VR技術を使えば、対面でなくても一緒に運動やトレーニングが可能になり、距離や時間といった物理的な制約から解放され、予防医療がより身近なものとなります。
3つ目の課題である行動変容の効果を実感するためには、ウエアラブルデバイス(首や指、顔、足など、体の一部に装着して使用する電子機器)などのIoT技術が活用可能です。医療機関に足を運ばないと知れなかった成功も、自宅で連続的にモニタリングできるため、今までよりも場所を選ばず連続して詳細に自身の状態を把握できます。
これらの予防医療は健康が維持できることで、医療従事者の業務を減らすことにもつながります。
予約システムの導入による業務効率化
診療予約システムの導入により、患者自身が都合のよい時間に予約でき、待ち時間削減につながります。また、患者自身で予約の多い時間帯を避けるようになるため、院内の混雑が解消されると考えられます。
また、病院に通う患者の情報を自動で蓄積し、管理できます。従来、顧客情報とは別にカルテを紙で管理していた場合は、別途管理する必要がなくなるため、病院事務の業務効率化に大きく貢献できます。データ管理も一元化することで、紛失や漏洩の危険性を削減可能です。
医療機関における医療DXの成功事例
予約システムで管理業務を効率化|ヒラハタクリニック
ヒラハタクリニックは、渋谷駅から徒歩2分の場所に位置し、コロナウイルス後遺症およびコロナウイルスワクチンの長期副反応に特化した外来診療を行っています。そんな当院では、業務効率化の一環として、来院予約には予約システム「RESERVA」を導入しています。RESERVAに導入されている予約時アンケート機能は、患者への事前問診表として活用できます。これにより、来院前に必要な情報を事前に収集し、診療の効率化を図っています。
また、当予約サイトでは、残席数表示機能を使っています。残席数が表示されていることで、患者はリアルタイムで空き状況を確認できるため、予約の際に適切な時間を選びやすくなります。これにより、待ち時間の短縮が期待でき、患者の満足度が向上します。また、電話や対面での予約対応が減ることでスタッフの負担も軽減され、業務の効率化が図れます。さらに、予約のキャンセルや変更が容易になり、無駄な空き時間を減らすことができます。
参考:ヒラハタクリニック
予約サイト:https://reserva.be/hirahatacovidtest
AI問診を活用して業務効率化|沖縄県 南部徳洲会病院
沖縄県島尻郡の南部徳洲会病院は、デジタル問診を行えるUbie(ユビー)株式会社のユビー・メディカルナビを導入しています。ユビーでは、受診前の症状チェックや事前問診、受付時のカルテの作成、診察時のカルテの転記を行い、効率化と充実化を進めます。当システムのAIは、5万件以上の医学論文を参考にしているだけでなく、医師監修のもと常に新しいエビデンス情報が追加されます。医療事務、看護師、医師、それぞれの業務を効率化するため、業務時間の改善や過剰な人員の削減につながり、働きやすい環境が実現できます。
南部徳洲会病院では、もともと発熱外来に10人の看護師が専任で着いており、課題な人件費や残業、労働時間が問題視されていました。しかし、ユビーを導入してからは、発熱外来は2人の看護師で回せるようになり、業務環境が改善されていることがわかります。
参考:ユビ―メディカルナビ病院向け
参考:ユビ―AI問診「発熱外来問診のスタッフ数がユビー導入で10人→2人に。業務効率化に加え残業時間や人件費の削減も実現」
南部徳洲会病院スマートフォン問診:https://ubie.app/medical_institution/introduction?hospital_user_key=5e65b84a-c10b-4b6f-a77e-422756500d7b
予防医学へのAI活用によって現場負担の解消を実現|倉敷中央病院・NEC
岡山県倉敷市の倉敷中央病院とNEC(日本電気株式会社)は、倉敷中央病院が2019年6月にオープンした「倉敷中央病院付属 予防医療プラザ」において、AIを活用した予防医療を実現しています。
NECの健診結果予測シミュレーションを用いて、倉敷中央病院総合保健管理センターは、過去5年間の約6万人分の健康診断データを分析し、健診結果の予測精度向上に取り組みました。さらに、診療データも組み合わせて分析し、生活習慣と診療データの関連性を検証することで、発症予測技術の検証しました。
具体的には、健康診断データ(体重、腹囲、血圧、糖代謝、脂質代謝など)や生活習慣データ(運動、食事、飲酒など)を基に、生活習慣病に関連する9種類の検査値を数年後まで予測します。また、対象者が生活習慣を見直した際の将来的な検査値のシミュレーションを行い、行動変容を促すことが可能です。倉敷中央病院では、総合保健管理センターを1987年に設立し、年間約3万8千人の人間ドックや各種健診を行っていましたが、近年の高齢化に伴い受診希望者は年々増加しており、更なる予防医療の充実と受診体制の整備が必要となっていました。そこで、AIによる予防医療システムの導入により、1日当たりの受診者は従来よりも70人多い、250人を受け入れ可能になりました。
参考:NEC「倉敷中央病院とNEC、AIを活用した予防医療に向けて共創を開始~『NEC 健診結果予測シミュレーション』を予防医療プラザで利用し、予防医療の充実と市民の健康維持を目指す~」
参考:NEC「異種混合学習」
参考:倉敷総合病院付属予防医療プラザ
予約システムRESERVAで、医療事務も最適化・効率化へ
数ある予約システムのなかで、さまざまな病院への導入事例もあるRESERVAがおすすめです。RESERVAは、28万社が導入、700以上の医療機関も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約はもちろん、決済、顧客管理、さらには集客まで自動化が可能です。機能は100種類を超えており、医療従事者の業務をより効率的に進められます。初期費用無料で、サポート窓口の充実さ、ヘルプの利便性が高いことから、初めて予約システムを導入する医療機関にもおすすめです。
RESERVAは予約を受け付けるだけでなく、多岐にわたって業務の効率化を図ることができます。医療機関に最適なRESERVAの詳細は、こちらをご覧ください。
まとめ
本記事では、医療DXのとAIによる医療従事者不足の解消の方法について詳しく触れてきました。医療DXを進めることで、医療従事者の負担軽減につながり、適切な人数で医療を進め、患者の安全が保障される病院づくりを実現します。DXを推進するにあたって課題を抱えている医療機関の関係者は、ぜひ本記事を参考にしてください。
RESERVA.mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。