デジタル時代の到来とともに、医療の形は変化してきています。特にセルフケア領域においては、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が健康増進を大きく向上させるため、積極的なデジタル技術の導入が実現されています。
本記事では、さまざまなセルフケアに注目して現状の課題を解説し、その課題の解決やケアを充実させるのに有効な医療DXを具体的な事例を交えながら紹介します。
セルフケアとは
セルフケアとは、個人が自身の健康を守り、増進し、疾病を予防するために主体的に行う取り組みを指します。これは単にメンタルヘルスに限ったものではなく、身体的、精神的、社会的健康を含む幅広い領域にまたがる概念です。
セルフケアについてWHO(World Health Organization:世界保健機関)では、以下のように定義づけられています。
セルフケアによって健康と福祉が可能となる概念的枠組みは以下の階層により同心円かつ重層的に構成されています。
・第一階層 (重要原則) : 人権、ジェンダーの平等、倫理、人生の各段階、伝統的医療と社会文化的な実践、デジタル技術とプラットフォーム
・第二階層 (利用する場所) : 医療従事者、薬局、医療サービス、家庭など
・第三階層 (可能とする環境) : 医療製品の安全性、心理的社会的支援、衣食住と医療費を負担できる経済力、情報と教育など
・第四階層(説明責任を持つ各ステークホルダー) :地域社会、民間部門、医療部門、政府 ・ 行政、個々人など
引用元:公益社団法人日本WHO協会「WHOのセルフケアの概念的枠組み」
セルフケアには、日常的な運動やバランスの取れた食事、定期的な健康チェック、適切な薬の使用、感染症予防のための手洗いやマスク着用といった行動が含まれます。また、自己判断や知識に基づいて行う医療ケアの一環として、かんたんな傷の手当てや慢性疾患の管理もセルフケアの一部です。セルフケアの実践は、個人の健康だけでなく、医療の負担を軽減し、持続可能な社会を実現するうえでも重要な役割を果たします。
セルフケアの重要性
セルフケアは非常に重要ですが、病院での治療と比べて軽く見られることが多いのが現状です。セルフケアが重要な理由は、不調の兆しに最初に気づけるのが本人自身だからです。心身の不調は初期段階では症状が軽く周囲には気づかれにくいものの、この時点でセルフケアを行えば悪化を防げます。特にメンタルケアでは、従業員が健康を維持することで休職を防ぎ、生産性向上や組織の発展にもつながります。セルフケア教育やストレス管理の導入は、個人と組織の両方にメリットをもたらします。
セルフケアを効率的に進める医療DXとは
医療DXとは
予防医療としてセルフケアをより効果的かつ効率的に進めるために役立つのが、医療DXです。医療DXとは、保健・医療・介護の各段階において発生する情報やデータを、クラウドなどの最適化された基盤を通して、業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図る動きです。これにより、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることが期待されています。
医療DXは、サービスの効率化や質の向上により、以下の5点の実現を目指しています。
1.国民の更なる健康増進
2.切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
3.医療機関等の業務効率化
4.システム人材等の有効活用
5.医療情報の二次利用の環境整備
これらの実現に向け、日本では「医療DXの推進に関する工程表」にもとづき、①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化等、③診療報酬改定DXを3本の柱とし、取り組みを進めています。
参考:厚生労働省「医療DXについて」
セルフケアにおいて医療DXを推進するメリット
時間や場所を問わずケアが可能
DX化を進めることで、ケアにおける時間や場所の制約が解消されます。セルフケアは、不調を感じた際、可能な限り早急に対処することが鍵となります。デジタル技術を活用することで、ケアが必要なタイミングで、どこにいてもアクセスできる仕組みが整います。
特に、メンタルケアの領域におけるセルフケアでは、不調の深刻化により、他者との面会や外出が心理的・身体的に負担になる場合があります。このような状況でも、デジタル化されたセルフケアツールや環境が整えられていれば、自宅でケアに取り組めます。これにより、外部との接触を避けながら、必要なケアサポートを受けられます。
パーソナライズしたケアの実現
セルフケアのDX化の中でも、AIやビッグデータの活用は特に重要です。これにより、個人の状態に合わせてパーソナライズされたケアを提供することが可能になります。ビックデータの活用で、一般的なアドバイスだけでなく、その人特有の課題や状況に基づいた適切なケアを提案できます。
例えば、AIが収集したデータから、不調の兆候をいち早く察知し、セルフケア方法や必要なリソース(オンラインカウンセリング、リラクゼーション技法など)を個別に提案することが可能です。パーソナライズされたケアを行うことで、効果的な予防や重症化の防止が期待されます。さらに、ビッグデータを活用すれば、個人データに加え、多くのユーザーデータを統合・分析し、精度の高い予測や効果的な対策を導き出せます。これにより、社会全体の健康状態にも寄与します。
セルフケアにおける医療DX事例
スマリハ|リモートセルフケアアプリ
スマリハは、株式会社アイスリーメディカルが提供している心身の不調を解消するためのリモートセルフケアアプリです。多くの人が悩みをもつ、肩こりや腰痛を自宅で改善できます。今後、頭痛や睡眠障害などの対策もできるようになる予定です。
厚生労働省が提案する「こころと体のセルフケア」では、身体を動かすことが重要な要素として挙げられています。運動は、心身の健康に大きな効果をもたらします。特に、ネガティブな感情の発散やリラクゼーション効果、さらには睡眠リズムを整える役割を果たします。これにより、ストレスの軽減やこころの安定が期待されます。また、外出が難しい場合や、自分のペースで運動をしたい場合でも、適切な運動習慣を維持することが可能です。
参考:株式会社アイスリーメディカル「スマリハ」
Fones Visuas
Fones Visuas(フォーネスビジュアス)は、NECのグループ会社であるフォーネスライフ株式会社が提供する、将来の疾病リスクを可視化し、生活習慣の改善をサポートするトータルヘルスケアサービスです。疾患時の早期発見は大切ですが、それはすでに「発症」段階にあり、こころや身体、経済的な負担は少なくありません。そこで、フォーネスビジュアスを活用し、将来病気になる確率を知り、疾患前から対策を始めることが求められます。
当サービスの大きな特徴として挙げられるのが、検査段階における身体の負担が少ないことです。かんたんな問診と少量の採血のみで、前日の食事制限も必要ありません。このような簡便な検査にもかかわらず、認知症、心筋梗塞・脳卒中、肺がん、慢性腎不全になるリスクを把握できます。また、糖尿病の発症リスクと関連性が高い耐糖能、肝硬変の発症リスクと関連性が高い肝臓脂肪など一般的な血液検査では容易に知ることができないさまざまな身体の状態も知れるため、現在多くの病院や大学などの研究機関から高い評価を受けています。
当サービスは、生活習慣病のリスクが高い従業員を対象に、血液検査を実施し、疾病発症リスクを予測する取り組みを企業に提供しています。この検査では、採取した血液データをもとに、検査日から4年以内に疾病が発症するリスクを予測します。検査外でも、従業員に、AIクラウドサービス「NEC 健診結果予測シミュレーション」や生活習慣フォロー・改善アプリを利用して、セルフケアを通じた生活習慣の継続・改善を支援します。
参考:Fones Visuas
参考:NEC「フォーネスビジュアス」
こころコンディショナー|セルフケアAIチャットボット
こころコンディショナーは、株式会社朝日新聞社が運営するメンタルウェルビーイング向上を目的としたAIチャットボットです。このサービスは、精神科医の大野裕氏の監修のもと、NECソリューションイノベータ株式会社と共同で開発されました。利用者からは「チャットボットとの対話を通じて自分の考えを整理でき、こころが軽くなった」との声が寄せられています。
こころコンディショナーの主な効果は、チャットボットを活用した対話により、利用者が自身の考えや感情を整理しやすくなる点です。回答は選択式だけでなく、自分の気持ちをコミュニケーションアプリのような形で、対話内で気持ちを引き出していくため、ストレスの軽減や自己理解の促進が期待できます。また、オンラインで手軽に利用できるため、忙しい日常の中でもこころのケアを行うことが可能です。さらに、認知行動療法の要素を取り入れており、ネガティブな思考パターンの改善にも寄与します。
参考サイト:こころコンディショナー
INNER FACE|AIによる表情分析
株式会社電通デジタルは、福島県立医科大学と早稲田大学に在籍する研究者を始めとする心理学・人間科学の4名の研究者と産学共同で、リモートワーカーの表情とメンタルヘルスの相関性を観測するINNER FACE(インナーフェイス)の開発を開始しました。リモートワークで使用しているPC搭載カメラやWebカメラによる利用者の表情分析を通じて、リモートワーカーの日々の感情推移を解析していきます。加えて、メンタルヘルスケアテストを定期的に実施することで、自身のコンディションを的確に把握できるようになります。
新型コロナウイルス感染症の拡大以降、全世界でうつ病・うつ状態の患者数は増えており、同時に浸透したリモートワーク環境においてもメンタルヘルスケアは喫緊の課題となっています。また、月間総務によると、「従業員のメンタルケアが難しい」と課題を抱える企業は73.3%にのぼっており、オフィスワークでは気づくことができた従業員の些細な変化に、リモートワーク環境ではさらに察知しづらくなっている状況が課題に挙げられます。
この分析機能では、リモートワーク中、従業員がパソコンに向かい通常業務をしている状態で、表情分析をするAIによってメンタルヘルス状態をレポーティングし、コンディション管理をサポートすることができます。今後も実証実験を実施して研究データを蓄積することで、最終的には表情分析から異常の予測などメンタルヘルスケア領域での活用を推進していくことを目標としています。
e.apo mobile|AI歯医者
韓国・釜山の株式会社QTTは、 2017年に設立した口腔健康のための革新サービスを提供する次世代デジタルデンタルケアソリューション専門企業です。そんな当社は、2022年に「e.apo mobile」をリリースしました。このアプリは、ユーザーが口腔写真をアップロードすると、機械学習アルゴリズムを利用した画像分析によって、矯正の必要性、虫歯の状態、補綴物(ホテイブツ:虫歯や歯周病などで歯を失ったり、欠けてしまったりした部分を人工的な材料で補う物)の状態を総合的に判断し、利用者の口腔の健康状態を正確に予測します。
利用者が自身の端末からネットワーク経由で口腔写真を送信し診断結果をリクエストすると、その画像をAIで解析します。この解析では、虫歯の状態や補綴物の状態を詳しく分析し、それらの情報に基づいて、口腔全体の健康状態を予測します。そして、この予測結果をユーザーに提供します。結果が悪かった場合は、そのままアプリ上で歯科の予約も可能です。このアプリは、歯医者に行くきっかけ作りだけでなく、歯医者を手間に思う患者が自宅でセルフチェックを継続し、口腔内を綺麗に保つきっかけを作ることができます。
医療DXを始めるなら予約システムRESERVA
医療現場では、来院業務やスタッフの配置、備品の補充などのさまざまな面でデジタル技術を活用した医療の最適化が求められます。こうした業務を効率化するために役立つのが、予約システムの導入です。予約システムの機能は、来院や面会の予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらにスタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、来院者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
現在、多くの予約システムがありますが、医療機関が効率的にDXを促進するには、導入実勢が豊富なRESERVAがおすすめです。RESERVAは、30万社以上が導入、700以上の医療機関も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められます。予約サイトは6タイプから選択できるため、さまざまな医療サービスの形に適応します。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる病院、クリニックにもおすすめです。
まとめ
今回は、セルフケア領域における医療DXの事例について見ていきました。セルフケアという言葉からはメンタルケアの分野が連想されがちですが、その概念は身体的、精神的、社会的健康を含む幅広い領域にまたがります。
セルフケアは個人の健康管理にとどまらず、予防医療、健康増進、慢性疾患の管理など、多岐にわたるテーマと結びついています。そのため、医療DXは医療分野におけるさまざまな課題に対応する重要な役割を果たしています。
RESERVA mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。