DX(デジタルトランスフォーメーション)は、医療分野にも新たな変革をもたらしています。この記事では、医療DXの概念や医療現場におけるAI(人工知能)活用の利点や注意点を解説します。そして、こうした技術が実際にどのように活用されているのか、全国の医療機関、企業からの事例を紹介します。
医療DXとは
医療DXの定義と3本の柱
厚生労働省によると、医療DXとは、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」と定義されています。
医療DXは、サービスの効率化や質の向上により、以下の5点の実現を目指しています。
- 国民の更なる健康増進
- 切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
- 医療機関等の業務効率化
- システム人材等の有効活用
- 医療情報の二次利用の環境整備
これらの実現に向け、日本では「医療DXの推進に関する工程表」にもとづき、①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化等、③診療報酬改定DXを3本の柱とし、取組を進めています。
医療現場におけるAI活用の役割
診断支援
AIは、X線やCTスキャン、MRIなどの医療画像を分析し、異常を検出する能力に優れています。AIのアルゴリズムは、大量の画像データから学習し、微細な病変や異常を高い精度で識別します。これにより、従来の診断方法よりも早期に病変を発見できる可能性が高まり、早期治療が実現します。
また、AIは病歴や症状、検査結果などのデータを統合し、疾患のリスクを予測することも可能です。AIの予測診断は、症状が進行する前に適切な検査や予防措置を講じる助けとなり、疾患の早期発見と予防に寄与します。これにより、患者が抱える症状にもとづいて、将来発症する可能性のある疾患を早期に察知することができ、医療の質が向上します。
治療の最適化
AIは、患者の病歴、現在の状態、治療法の効果などを分析し、最適な治療計画を提案します。これにより、個々の患者に最も適した治療法を選定することができ、治療の成功率が向上します。
膨大な患者データを蓄積するAIは、そこから遺伝情報、生活習慣、既往歴などを抽出し、個別化された治療法を提供することも可能です。これにより、治療の効果を高め、副作用のリスクを低減することができます。
予防医学の実現
AIは疾患の発症リスクを予測することができます。例えば、心疾患や糖尿病のリスクを予測するモデルを用いることで、早期に予防策を講じることができます。これにより、疾患の発症を防ぎ、健康管理の質が向上します。
このほか、個々の患者の健康データをもとに生活習慣の改善や予防策の提案にもAIを役立てることができます。例えば、運動不足や食生活の改善点を提案し、疾患のリスクを低減する手助けをします。また、健康状態のモニタリングをリアルタイムで行うことで、異常を早期に発見し、適切な対策を講じることができます。これにより、予防医学の実現が進み、健康維持がサポートされます。
AI導入の注意点
見落としや誤診のリスク
AIは医療機関において多くの利点がある一方で、誤診や見落としのリスクがあります。特に、稀な疾患や新しい症例に対する対応が難しい場合や、AIが提示する結果を医療従事者が適切に解釈できない場合、誤診が発生する可能性があります。
AIによる画像診断の場面でも、例えば、AIが正常な画像を異常と誤認識したり、逆に異常な画像を正常と判断したりする恐れがあります。AIの導入にあたっては、こうしたリスクを全体で認識し、適切な検証と監視が必要です。
責任の所在
万が一、AIによる誤診が発生した場合、責任の所在が重要な問題となります。一般的には、AIは診断を支援するひとつのツールとしてみなされ、最終的な診断は医療従事者が行います。したがって、AIによる誤診が発生した場合の責任は医療従事者や医療機関にあるとされます。しかし、AIのアルゴリズムやデータに問題があった場合、その責任は開発者や提供者にもおよぶ可能性があります。
プライバシーとデータセキュリティ
AIの導入により、患者データの取り扱いが重要な課題となります。患者の個人情報や医療データは、プライバシー保護の対象です。AIシステムはこれらのデータを分析するため、医療機関ではデータの保護と倫理的配慮が必要です。患者の同意を得ることや、データの匿名化、セキュリティ対策を講じることが求められます。データ漏洩や不正利用を防ぐための対策が必要です。
さらに、AIシステムはサイバー攻撃やデータ改ざんのリスクにさらされる可能性があります。これを防ぐためには、AIシステムのセキュリティ対策を講じることが重要です。セキュリティ対策を適切に行うことで、患者データの保護とシステムの信頼性を確保することができるでしょう。
AIと医療従事者の協働に向けて
AIツールを扱う医療従事者の教育
AIを効果的に活用するためには、医療従事者がAI技術を理解し、適切に使いこなすスキルが求められます。医療従事者は、AIの出す結果を評価し、治療方針に反映させる能力が必要です。これには、AIの基本的な仕組みや限界を理解するための教育が必要です。医療従事者は、AIと連携して患者に最適な医療を提供するためのスキルを身につけることが求められます。
明確な役割分担
AIと医療従事者が効果的に連携するためには、明確な役割分担とスタッフ間のコミュニケーションが必要です。AIは診断や治療の支援を行いますが、最終的な判断は医療従事者が行います。医療従事者はAIの提案をもとに、患者に最適な医療を提供するための判断を行います。AIと医療従事者の連携を強化するためには、AIの結果を正しく解釈し、適切な対応をするためのトレーニングと支援が必要です。
医療機関におけるAIの活用事例
生成AIを活用した患者還元型・臨床指向型の循環システム|大阪国際がんセンター
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)、大阪国際がんセンター、日本アイ・ビー・エム株式会社、TXP Medical株式会社は、2024年3月より「生成AIを活用した患者還元型・臨床指向型の循環システム」の取り組みを開始しました。
このシステムは、生成AIを用いたアバターの医師が症状を聞き取ったり治療の流れを説明したりするもので、大阪国際がんセンターで検証が開始されています。今後は診療ガイドラインをAIに学習させながらテストを行い、2025年以降の実用化を目指す予定です。来院前にウェブ上で問診を行うことで診察時間や医師の負担を削減するだけでなく、蓄積された情報をデータベース化することで、新たな治療法や新薬の開発などにも活用することが期待されています。
参考:TXP Medical株式会社「「AI創薬プラットフォーム事業と生成AI」参画のTXP Medicalがwebinarを開催」
参考:医薬基盤・健康・栄養研究所公式YouTube「生成AIを活用した患者還元型・臨床指向型の循環システム(AI創薬プラットフォーム事業)説明会」
マルチモーダルAI|日本医科大学
日本電気株式会社(NEC)、理化学研究所(理研)、日本医科大学は、複数の大学病院と共同で、医療分野における電子カルテとAI技術の融合研究を進め、2023年6月、前立腺がんを対象に医療ビッグデータを多角的に解析するマルチモーダルAIを構築しました。
NECが保有する電子カルテ上の各種データを統合するプラットフォーム技術、理研が開発した広範囲画像解析技術などを活用したマルチモーダルAI、日本医科大学をはじめとする複数の大学病院の医師による信頼性の高い検証データを組み合わせ、各種医療データを多角的に解析する医療AIシステムの実用化を目指します。このAIシステムにより、治療計画の最適化や疾患の早期発見、データの安全な運用が可能となり、治療期間の短縮による医療費の削減や、医療従事者の業務負荷の軽減と効率化が期待できます。
参考:日本医科大学プレスリリース「NEC、理化学研究所、日本医科大学
電子カルテとAI技術を融合し医療ビッグデータを多角的に解析」
AIによる疾病予測システム|東京ミッドタウンクリニック
東京ミッドタウンクリニックでは、東芝デジタルソリューションズ株式会社が開発した「疾病リスク予測AIサービス」を導入し、生活習慣病の個別化予測データを健康診断レポートに反映し、より具体性を増した健康指導に取り組んでいます。
「疾病リスク予測AIサービス」とは、1年分の健康診断データを入力し、6年先までに、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、腎機能障害、肝機能障害、そして肥満症という6つの生活習慣病を発症する可能性を予測するサービスです。当クリニックで継続して健康診断を受診し、システムに記録していくことで、より最適な健康改善策の提案が可能となっています。
参考:東芝デジタルソリューションズ株式会社「東芝のAI技術を活用した疾病リスク予測AIサービス」
予約システムRESERVAで、医療事務も最適化・効率化へ
医療の現場では、AIの技術を導入しながら最善の診断を行うだけでなく、来院業務やスタッフの配置、備品の充填などの医療事務も最適化する必要があります。そうした業務を効率化するためにおすすめなのが予約システムの導入です。予約システムの機能は、来院や面会の予約管理にとどまらず、決済から顧客管理、さらにスタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、来院者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
現在多数の予約システムがありますが、医療機関が効率的にDXを促進するためには、実際に導入事例もあるRESERVAをおすすめします。RESERVAは、28万社が導入、700以上の医療機関も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる病院、クリニックにもおすすめです。
まとめ
本記事では、医療DXの定義や、AI技術を導入している医療機関の事例について紹介しました。医療現場にAI技術を導入することで、より診断を精緻化させることが可能となるだけでなく、医療従事者や患者の負担軽減やサービスの質向上にもつながります。医療のDX化を検討している医療機関の関係者は、ぜひ本記事を参考にしてください。
RESERVA.mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。