働き方が多様化し、リモートワークやフレックスタイム制度が広がる一方で、仕事とプライベートの境界が曖昧になり、心身の負担を感じる人が増えています。厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、令和4年は 82.2%にのぼり、メンタルヘルス対策の必要性が高まっています。こうした状況を受け、企業や医療機関ではストレスチェックの重要性が増しています。一方、医療機関では、メンタルヘルスの問題を抱える患者が増加しており、早期発見と適切な対応が求められています。
より精度の高いストレスチェックの方法として、近年、AI技術を活用したストレスチェックが注目を集めています。AIは従来の自己申告に頼る方法とは異なり、音声解析や表情認識、生体データの分析など、多様な技術を組み合わせることで、より正確にストレス状態を把握することができます。本記事では、AIを活用したストレスチェックの現状や課題、医療DXによる解決策、導入事例、今後の展望について詳しく解説します。
AI技術を用いたストレスチェックの現状

既存のストレスチェック方法
現在、日本の企業で実施されているストレスチェックの多くは、厚生労働省による「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」などのアンケート形式が主流です。これにより、従業員自身がストレスの自覚を深め、必要に応じて産業医のカウンセリングを受けることが可能になります。しかし、自己申告に依存するため、正直に回答しないケースや、本人がストレスを自覚していない場合には有効な評価ができないという課題があります。アンケート方式の課題を補うため、心拍変動や血圧測定を活用した生理的指標によるストレス評価も行われています。これにより、客観的なデータに基づいたストレス評価が可能になりますが、特定の環境下でのみ測定されることが多く、日常的なストレス変動を捉えるには限界があります。
このような背景から、近年、AI技術を活用した新しいストレスチェック手法が登場しています。AIは大規模データを解析し、個人のストレス状態をリアルタイムで評価することが可能です。これにより、従来の方法では難しかった「無意識のストレス」の検出が可能となり、より精度の高いストレス評価が期待されています。
AIを活用したストレスチェック技術の例
AIを用いたストレスチェックの一例として、音声解析技術があります。人間の声には感情が反映されるため、話し方の抑揚やリズム、発話速度などを分析することで、ストレスレベルを測定することができます。
カメラを用いた表情解析も有力な技術の一つです。微細な表情変化をAIが解析し、ストレスや感情の変化を検出します。すでに医療現場では、AIによる顔認識技術を用いて、患者の精神状態を評価する試みが進められています。
ウェアラブルデバイスを活用し、心拍数や血圧、皮膚電気活動などの生体データをリアルタイムで収集し、ストレスレベルを評価する技術も登場しています。これにより、従業員や患者が日常生活の中で継続的にストレスをモニタリングすることが可能になります。
チャット等のテキストをAIが解析し、ストレスの兆候を検出する手法もあります。特定のキーワードや文脈を分析することで、個人のストレスレベルを評価し、必要に応じて適切なサポートを提供することができます。
AIを活用したストレスチェックの課題

精度のばらつきと機械学習モデルの改善
AIを活用したストレスチェックは、従来の方法と比較して客観的なデータに基づいた評価が可能ですが、個人差によるばらつきが課題となっています。例えば、心拍変動や音声のトーン、表情の変化は個人によって異なるため、同じストレス状況であってもAIの判断が変わる可能性があります。
AIの精度を向上させるためには、大規模なデータセットと高度な機械学習モデルの開発が必要です。しかし、ストレスに関連するデータは非常に個人的なものであり、大規模なデータ収集にはプライバシーの問題がともないます。また、ストレスの影響は長期的に現れることもあり、短期間のデータでは正確な予測が難しい点も課題となっています。
プライバシーとデータ管理のリスク
AIを活用したストレスチェックでは、音声データ、表情データ、心拍データなどの個人情報が扱われます。そのため、データの管理やセキュリティが非常に重要です。万が一、これらのデータが外部に漏洩した場合、個人の健康状態やメンタルヘルスに関するセンシティブな情報が悪用される可能性があります。特に、企業が従業員のストレスデータを収集する場合、適切なデータ管理の体制が求められます。ストレスチェックのデータをどのように収集し、どのように利用するのかについても、法的・倫理的な議論が必要です。
また、企業や医療機関がAIストレスチェックを導入する際、単にシステムを導入するだけでなく、データの運用管理や解析体制の整備が必要です。特に中小企業では、専門的な知識を持つ人材が不足している場合が多く、導入後の運用が課題となることが考えられます。そのため、低コストかつ運用しやすいシステムの開発が求められます。
医療DXによる課題解決の可能性
AIと医療DXの融合による精度向上
厚生労働省によると、医療DXとは、「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」と定義されています。

AIストレスチェックの精度を向上させるためには、医療機関が持つ電子カルテや健康診断データと連携することが重要です。これにより、従来のアンケート結果だけでは把握しきれなかった個人の健康状態をより正確に評価できるようになります。さらに、従来のストレスチェックは一時的な評価にとどまりがちでしたが、医療DXを活用することで、AIが過去のデータを学習し、個々のストレスパターンを把握することで、より効果的なストレス対策を提案できるようになります。
セキュリティ技術の向上
プライバシー保護の観点から、ブロックチェーン技術を活用することで、データの安全管理を強化することが可能です。ブロックチェーンを活用すれば、ストレスチェックデータの改ざんを防ぎ、透明性のあるデータ管理が実現できます。
個人情報を匿名化し、データの取扱いをより安全にする技術も重要です。匿名化技術を導入すれば、企業や医療機関がストレスチェックデータを収集・活用しやすくなり、個人情報の漏洩リスクを最小限に抑えることができます。
AIストレスチェックの導入事例
KDDI|AI社員健康管理

KDDIは、日常的に社員の心身の変化を把握し、心身の不調につながる予兆を早期に察知・フォローするため、「AI社員健康管理」を2020年9月10日から全社員約12,000名へ提供開始しました。
KDDIは、心身不調の予兆のある社員を本人から申告のない段階でも発見し、医療職や所属長と連携しながらフォローしていくため、全社員を対象としたストレスチェックを年に1回、残業時間やストレスチェック結果などのデータを用いた「AIによる不調予兆者検知」および「社内カウンセラー面談」を年に2回実施しています。この取り組みでは、心身不調の予兆がある社員をいかに早く発見できるかが重要ですが、年に2回の状況把握ではリアルタイム性が低く、予兆を見逃してしまう可能性がありました。
本システムでは、社員が業務用スマートフォンで「最近、よく眠れていますか?」など健康に関わるさまざまな質問に1日1問答え、日々の回答が蓄積されることで心身の変化を可視化することができます。また、AIを用いて蓄積された回答データを分析し、各設問と心身不調の予兆との相関性やストレス度合いを明らかにし、不調予兆者を検知します。これにより、社員の心身不調の予兆をより早期に発見し、より迅速なフォローが可能になります。
株式会社デンソー|Mente for Biz(メンテフォービズ)

株式会社Medi Faceは、株式会社デンソーにて、AIメンタルチェックをはじめとした法人向けクラウドサービス「Mente for Biz」の提供を開始しました。
デンソーではメンタルの不調を早期に察知し、産業医や心理カウンセラーによって適切にケアしていく体制を整えることで、離職者や高ストレス状態の従業員を減らし、従業員1人ひとりが働きやすい職場づくりを目指しています。今回、デンソーの一部の部署に限定してサービスの提供を開始する「Mente for Biz」では、こうしたメンタル不調の早期発見からメンタルケアまでをトータルサポートします。本システムを導入することで、従業員にセルフチェックの重要性を啓発し、企業全体としてのメンタルケアに対する意識の底上げに貢献します。
株式会社鴻池組|メンタルヘルスさくらさん

「メンタルヘルスさくらさん」を5月より導入」
株式会社鴻池組は、株式会社ティファナ・ドットコムが開発したAI「メンタル ヘルスさくらさん」を建設業界で初めて導入しました。
メンタルヘルスさくらさんは、ティファナ社が精神科医とともに共同開発した高性能AIが、従業員のメンタル状態を自動的に簡易診断するサービスです。本サービスを利用することで、鴻池組の従業員は職場や家などから24時間365日いつでもAIと会話することが可能となりました。メンタルヘルスさくらさんは、従業員とのやりとりを通じて彼らの悩みを多角的視点からチェックし、気付きを促していきます。そして、保健師や各種相談窓口部署の担当者への相談を希望する従業員に連絡先を案内します。
さくらさんへ気軽に相談できる環境を整えることで、従業員のストレスやメンタル不調の予兆を早期に発見し、適切なケアへとつなぐ役割を期待されています。さらに、従業員がさくらさんに親しみを持てるよう、「KONOIKE」のロゴ入り白衣を着用する工夫を取り入れました。
今後の展望
予防医療としてのストレス管理の普及
これまでのストレスチェックは企業内で実施されるケースが増えてきましたが、チェック後のフォローが十分でないことが課題とされてきました。しかし、AIを活用することで、ストレスチェックの結果に基づいた個別の健康アドバイスを提供することが可能になります。例えば、ストレスレベルが高いと判断された従業員に対し、AIがその人のライフスタイルや労働環境に合わせたストレス軽減策を提示することで、早期の対策を講じることができます。
さらに、AIが長期間にわたってストレスの変動を追跡することで、過去のデータと比較しながら最適な介入方法を導き出すことも可能です。このように、ストレスチェックを単なる「診断」にとどめるのではなく、予防医療としての活用が今後の重要な方向性となります。
個人向けストレス管理アプリの進化
近年、スマートフォンやスマートウォッチを活用したストレス管理アプリが増加しています。これらのアプリは、心拍数や睡眠データをリアルタイムで測定し、ユーザーのストレスレベルを可視化する機能を備えています。今後は、AIがより高度に分析を行い、ストレスの原因を特定することで、個別最適化されたアドバイスを提供できるようになります。
これまでのストレス対策は、人との対話を前提としたカウンセリングや相談窓口が中心でしたが、AIチャットボットを活用することで、気軽に相談できる環境が整備されつつあります。従来のチャットボットと異なり、AIが個人の会話履歴やストレス傾向を学習することで、よりパーソナライズされた対応が可能になります。このような技術の発展により、専門家に相談する前の「予備的なケア」として、AIチャットボットが大きな役割を果たすことが期待されます。
労働環境改善への貢献
AIを活用したストレスチェックのデータを集積・分析することで、企業は従業員のストレス要因を特定し、職場環境の改善に役立てることができます。従業員のストレス管理を積極的に行うことで、離職率の低下や生産性の向上につながります。AIを活用したストレスチェックは、企業が従業員の健康を管理し、より働きやすい職場を実現するための重要なツールとなり得ます。
業務効率化に医療DXの力を、予約システムRESERVA

医療現場におけるさまざまな業務を効率化するにあたって、誰でも手軽に始められるのが予約システムの導入です。予約システムの機能は予約管理にとどまらず、予約者情報の管理と蓄積、スタッフやリソースの調整に至るまで自動化する機能を持つシステムです。複数のツールやプラットフォームを切り替える手間は一切不要で、これにより、クリニックや医療機関の業務プロセスがより効率的に進められるだけでなく、利用者にとってもわかりやすく使いやすい環境が提供されます。
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まとめ
本記事では、AIを活用したストレスチェックの現状や課題、医療DXによる解決策、導入事例、今後の展望について紹介しました。AI技術を用いたストレスチェックは、従来の自己申告型の手法に比べて、客観的で精度の高い評価が可能になっています。こうしたタイプのストレスチェックは、今後ますます普及し、企業の健康経営や医療機関での予防医療において重要な役割を果たしていくことが期待されます。
RESERVA mdでは、今後も医療DXに関する知見や事例を取り上げていきます。