時代が進むにつれ、医療業界は大きな進歩を遂げています。調剤も例外ではなく、着実に技術が進歩してきました。たとえば、60年前に薬の分包作業が自動化されたことにより、薬剤師は薬を一つひとつ包んだり、分包紙に患者の名前を記載したりする煩雑な業務に手間をかける必要がなくなりました。さらに、近年は薬剤師に代わり、薬剤の選択・秤量・分包までを自動で行える「ロボット調剤」の技術が開発され、すでに導入に至っています。ロボット調剤を導入することによるメリットは複数ありますが、そのなかでも、薬剤師を調剤という単純業務から解放できることで、薬局の業務負担軽減や人手不足を解消するほか、100%防ぐことができないヒューマンエラーの抑止が期待できます。しかし、ロボット調剤には導入コストに莫大な費用が掛かることや、調剤料が減少することによる薬剤師の収入減などの課題が存在します。そのため、ロボット調剤を普及させつつも薬剤師の立場を守るためには、国による法改正などの取り組みが求められています。本記事では、ロボット調剤の基本的な概要から、導入による具体的なメリット、課題、そして、薬局のロボット調剤活用事例までを詳しく解説します。
ロボット調剤とは
ロボット調剤とは、医師が出した処方せんのデータを入力するだけで、コンピュータが薬剤の選択・秤量・分包を行える技術です。これまで、調剤や秤量は人の手を介して行われていましたが、近年は薬剤をロボットが見つけてくれる機械や、病院のカルテと連携し調剤をスピーディーに進める機械など、複数のロボット調剤技術が導入されています。ロボット調剤の導入により、薬剤師は調剤業務という単純作業から解放されるため、患者への服薬指導に時間をかけられるほか、医師と服薬についてコミュニケーションをとる時間を増やすことができます。ほかにも、調剤の自動化により必要最低限の人員で業務が完結するため、人手が少ない薬局や病院でも安定した運営が可能です。
ロボット調剤を活用するメリット
人的ミスの抑止
ロボット調剤の活用には多くのメリットがありますが、なかでも第一に人的ミスの抑止が挙げられます。薬剤師は、医師が出した処方せんに従って薬を調剤し、間違いなく患者に届けることが求められます。しかし、日本医療機能評価機構が行った「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」の調査によると、調剤で起きたヒヤリ・ハットの事例件数は8,565件にのぼります。内容としては、薬剤師の薬剤の取り違えや用法・容量の計数間違いなどが多く、その発生要因としては、判断誤りや慣れ・慢心、繁忙であった等の理由が挙げられています。主に薬剤師の行動や感情がミスの発生につながっているものの、人は感情をもつ以上、モチベーションや生産性に波があるため、ミスを完全に避けることは難しいです。しかし、薬の処方を間違えることで、ときには患者の健康や命に関わる取り返しのつかない事態が起きる場合もあるため、薬局には調剤においてミスをなくす取り組みが急務です。
ロボット調剤の技術を活用することで、ヒューマンエラーの課題を解決できます。ロボットは気持ちに浮き沈みがないため、環境や状況に左右されず、薬の処方の安全を担保することが可能です。薬剤の選択、秤量、分包をロボットに任せることで、薬剤師がミスをしやすい状況にあったとしても安心して患者に薬を処方することができます。ロボット調剤の導入により人的ミスが抑止されることで、患者に安心感が生まれるだけでなく、薬局や薬剤師の信頼性が保たれます。
薬剤師不足の問題を解消
厚生労働省が行った「薬剤師の需給動向把握事業における調査」によると、薬剤師の人数について「必要な人員より不足している」と答えた病院は50.5%であり、薬局と比較して病院では薬剤師の人数が不足しています。そのため、病院における薬剤師の充足は喫緊の課題です。しかしながら、病院はただ単に薬剤師を確保し目先の労働力を補うのではなく、長期的に見て安定した病院運営をすることが求められます。
そこで、ロボット調剤を活用することで必要最低限の人員で病院での調剤を行うことができ、人手不足の課題が解決されます。実際に、厚生労働省が行った「薬剤師の需給動向把握事業における調査」では、病院における調剤業務の機械化により、薬剤師の調剤業務時間が「減少した」と回答した病院は35.8%にのぼります。つまり、ロボットに調剤業務を委ねて薬剤師一人当たりの調剤業務を減らすという手段をとることで、新たな人員を確保することなく、人手不足の問題を解決できます。
「対物」から「対人」業務への転換
薬剤師は薬の処方だけでなく、患者への服薬指導や医師との綿密なコミュニケーションが求められます。たとえば薬剤師には、処方せんに疑問点や誤りがあった場合、医師に問い合わせて確認を行う「疑義(ぎぎ)照会」と呼ばれる業務がありますが、調剤の業務に追われている場合、必要とされる対話を失念してしまう可能性があります。
そのようなコミュニケーション不足の問題を解消するのが、ロボット調剤の導入です。ロボットが調剤業務の一部を担うことで、薬剤師は服薬指導のほか、生活の状況や食事指導などのコミュニケーションに時間を充てられるため、薬の処方以外の面からも患者の健康を守ることができます。このように、ロボット調剤の導入により安全な薬の処方が実現するとともに、患者は薬だけでなくさまざまな情報を入手できることで、さらに健康意識が高まります。
患者の待ち時間短縮
調剤薬局では、長い待ち時間が発生することが多々あります。患者の健康や命に関わる薬を処方する以上、薬剤師は慎重に業務を進めるため、仕方のないことです。しかし、体調のすぐれない患者が長時間待機する必要があったり、長い待ち時間に対するクレームがあったりと、待ち時間がもたらす問題は多岐にわたります。
待ち時間の課題は、ロボット調剤の導入により解決に導くことができます。薬剤師の手で行われている秤量や薬剤の選択を、ロボットが迅速かつ正確に行うことで、処方せんの受付から処方までにかかる時間を大幅に短縮することが可能です。実際に、厚生労働省が行った「薬剤師の需給動向把握事業における調査」では、調剤業務のシステム化により薬局における患者の待ち時間が前年に比べ78%減少したとされています。そのため、今後さらに機械の自動化と導入が進めば、薬剤師が一つひとつの業務を慎重に行う時間がなくなり、患者の待ち時間が短縮されます。
ロボット調剤を活用する上での課題
導入コストの高さ
ロボット調剤の機器はさまざまなものがあり、廉価なものは数十万円で購入できるものの、高価なものは約1,000万円に及ぶものもあります。そのため、資金の余裕がない中小の薬局や病院は導入に踏み切ることが難しい可能性があります。
さらに、導入コストだけでなく、機器を適切に運用するためにはメーカー側が機器の指導を薬局や病院に行うほか、定期的な機器のメンテナンスが必要になります。そのため、人件費やランニングコストがかさむ恐れがあり、慎重な導入の検討が必要です。
薬剤師の収入減
ロボット調剤が普及していくにつれ、薬の調剤にかかる業務の診療報酬が減少し、薬剤師の収入が減少することが考えられます。近年では、薬局全体として薬の調剤などの「対物業務」ではなく、患者への服薬指導や医者とコミュニケーションをとる「対人業務」を重視しています。そのため、対人業務を推し進めることを期待し、調剤業務等の対物業務の診療報酬が事実上引き下げられていることが予想されます。しかし、対物業務の診療報酬が減少する代わりに、対人業務にかかる報酬が引き上げられなければ、薬剤師の収入減少が懸念されます。
このように、ロボット調剤は薬局や病院の業務を効率化する一方で、薬剤師を脅かす可能性も考えられます。そのため、国は薬剤師の立場を守るために、法律の整備や対人業務の診療報酬の改定を検討していくことが求められます。
ロボット調剤の活用事例
梅田薬局
梅田薬局は、自動調剤技術を用いた「ロボット薬局」の開発・導入を行う株式会社メディカルユアーズが日本に初めて設立したロボット薬局です。当薬局が受け付ける処方せんの大半は同ビルにある複数のクリニックからのものであり、さらにEHR(医薬連携型医療情報連携基盤)というシステムを用いることで、医師が電子カルテに患者情報の記入を終えた段階から調剤がスタートする仕組みになっています。これにより、患者が薬局に来るまでに調剤を進められるため、患者の待ち時間が大幅に短縮されました。
海外ではロボット調剤がすでに普及していますが、そのほとんどは医薬品を箱ごとそのまま患者に渡す「箱出し調剤」に対応した機器であり、日本の薬局のシステムである用法や容量に合わせて分包する「計数調剤」には適していないため使用できませんでした。そこで、株式会社メディカルユアーズの社長である渡辺氏は、海外の調剤ロボットが計数調剤に適したロボットになるように、ソフトウェアを書き換えて改良し、薬を一錠単位で管理することが可能になりました。
今後、梅田薬局を運営する株式会社メディカルユアーズは、ロボットをさらに改良し外販を進めるほか、海外では一般的である箱出し調剤の標準化を提案し分包の手間をなくすことで、調剤の自動化をさらに推し進める方針です。
株式会社トモズ
住友商事は2019年2月から約1年半、「トモズ」の新松戸店にて7種類計9台の機械の導入を行い、薬剤師が行っていた調剤業務の約9割を自動・半自動化する実証実験を行いました。粉末のを調剤する機械のほか、朝・昼・晩に飲む薬を一包化する機械など、これまで薬剤師が行っていた業務の大半が自動化されました。また、半自動化の例としては、処方せんのバーコードを読み込むことで薬が入った棚が自動で引き出される機械が挙げられます。大量にある薬剤から処方する薬剤を探し出すという煩雑な業務をなくすことができます。
このように、ロボットを導入することで薬剤師の調剤ミスがなくなり、患者の不安を軽減することができます。さらに、薬剤師側も調剤ミスをする不安から解放されることにより、安心感を持ちながら業務を行うことができるため、やりがいの向上が期待できます。今後は、今回の実証実験を踏まえて検討を重ねたうえで、さらに導入店舗を拡大していく予定です。
きらら調剤薬局
きらら調剤薬局は、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社が販売するBD Rowa™(ビーディーローワ)ソリューションの一つである「BD Rowa™ ピックアップターミナル」を導入し、薬剤の入庫とピッキング作業を自動化しています。当製品は、服薬指導後であれば営業時間外でも非対面で薬の受け渡しが可能なシステムです。BD Rowa™ ソリューションは、大量の薬剤を収納可能であるほか、ロボットによる素早いピッキング作業により業務効率化を実現します。さらに、薬剤をID管理することで、有効期限管理を容易に行えることが特徴です。
薬剤師2~3名の体制で運営しているきらら調剤薬局は、新店舗・小規模であったことから、人員確保が進みませんでした。その課題を解決するためにBD Rowa™ ピックアップターミナルを取り入れたところ、人員不足が解消されるとともに、最低限の人員で業務が完結するようになったため、子育て世代の薬剤師や事務員の柔軟な働き方が実現しました。
さらに、当薬局はロボットの導入により、都合がつかない患者のニーズにも応えられるようになりました。たとえば、仕事の関係で薬の受け取り時間まで待てない患者は、都合の良い時間に薬局を訪れ、薬局から配布されたQRコードを読ませることで薬を受け取ることが可能となりました。ロボットの導入により、薬局の安定的な運営が実現したほか、薬剤師や患者にとってよりよい環境づくりが実現されました。
かんたんにできる医療DXには予約システムRESERVA
薬局や病院がさらに円滑に業務を進めるうえで、おすすめなのが予約システムの導入です。薬剤師は調剤や服薬指導にとどまらず、患者の受付や情報管理を迅速かつ適切に行う必要があります。ロボット調剤と併せて受付などの副次的な業務を予約システムにより効率化することで、薬剤師は調剤業務や受け付け・会計等の業務に時間をかけずに済み、患者への服薬指導などを通し、患者と向き合う時間を大幅に増やすことが可能です。予約システムは単に予約を受け付けるだけでなく、事前決済機能やカルテ機能が搭載されているため、会計や問診といった業務の効率化を実現できます。
現在多数の予約システムがありますが、QRコード受付やセルフチェックイン機能を搭載したRESERVAがおすすめです。RESERVAは、30万社が導入、700以上の医療機関も導入したという実績がある国内No.1予約システムです。予約受付をはじめ、機能は100種類を超えており、医療機関の業務プロセスがより効率的に進められます。初期費用は無料で、サポート窓口の充実やヘルプの利便性が高いため、予約システムの初導入となる病院、薬局におすすめです。
まとめ
本記事では、ロボット調剤の基礎から導入のメリット、課題、活用事例までをご紹介しました。人口減少や少子高齢化が叫ばれる昨今において、人手を確保することに注力するのではなく、ロボットやAIを活用し薬局における業務を効率化することで、長い目で見たときに安定した薬局の運営や薬剤師の負担軽減につながります。ロボット調剤の技術は、今度もさらに進化を遂げると予想されます。さらなる薬局・病院運営の効率化を実現するためには、ロボット調剤と併せて予約受付や支払い業務の効率化が重要です。
RESERVA mdでは、引き続き医療DXに関する知見や事例を紹介していきます。